大人の音楽、というか、感性です。
人生の業火をくぐり抜け、精製された真髄だけを軽やかに、ウィットとともに歌い上げる。
ジャケットを見ても分かるように、ここでのオスカーはエラに仕える従僕のような伴奏に徹しています。
そのようにして抑えても抑えても、なおも華のあるオスカーの演奏。
そして、そのさらに上を行くエラの歌。
エラ好き、オスカー好きには神からのプレゼントのような一枚です。
昨夏、このアルバムを聴きながら、いくつもの階段を上り下りし、テーマからテーマへと渡り歩き、多くの人々とディスカッションしなくてはならなかった。「適応せよ」と、スタン・ゲッツの天才が言い含める。
適応せよ、新しいフィーリング(ボサ・ノヴァ)に。
「・・・クスリなしでは無理だけど」というオチがありそうだけれど、とにかく彼は死んでなお、その神々しいぐらいのチャーミングなプレイで、昨夏の私を鼓舞し続けた。
怖がらないで、新しいフィーリングの中に身を任せるんだよ、と彼が言っているように聞こえる。
トム・ウェイツの『土曜の夜』を用いた古典的(パブロフの犬的)条件づけ:
無条件刺激:バーボン・ソーダ
無条件反応:血中アルコール濃度の上昇
条件刺激:『土曜の夜』
条件反応:『土曜の夜』を聴くだけで血中アルコール濃度上昇
その応用:家の中、会社の中、電車の中、『土曜の夜』であらゆるシーンがバーと化す。
十数年もの間、私にとってもこのアルバムがベスト・オブ・XTCだった。でも最近になって、トッド・ラングレンの存在が、なぜか急にうっとおしくなってきた。XTCの背中にのしかかる、巨大なおんぶお化けみたいに聞こえ始めたのだ。
もともとラングレンの放つ妖気は尋常ではなかった。初期のあの呪詛のようなサウンド。XTCもラングレンに催眠術をかけられ、身体半分乗っ取られてアルバム作りしていた可能性が大きい。
やはりXTCは、ラングレン抜きで行きたい・・・という時は『English Settlement』をどうぞ。
1曲でもRWを聴くたび死にそうになるのに、30年分も聴くなんて、無謀というほかありません。
何しろこのベストは濃すぎます。タイトルからして怖そうです。
とはいえ、さすがに曲目は粒ぞろい。
あえてケチをつけるなら、『'Round About Midnight』も入れて欲しかった。
このバージョンに勝るもの、あれば是非教えていただきたい。
というか、なぜ名アルバム『Ship Building』が検索しても出てこないのでしょうか。
マニアックでストイックかつエステティックでエレクトロニックなディペッシュ・モードのつくり上げた、究極の宗教歌。
安直な人間愛と救済を否定してきたDMが、ここであえて「信仰と帰依」と題したのには深い訳が・・・。
まさにDMの真骨頂というべき一枚。