2012年3月2日金曜日

ナイロン・カーテン




 







 





なんだかんだ言いつつ、翻訳にかかわり続けて20年以上になる。どんな仕事であろうと、長年続ければそれなりの職業病にかかるもの(もちろんそうじゃない人もいる)。 

自分の場合は、「すぐに文字に目がいく」「どうでもいい文をチェックする」「人の文章や言葉遣いまで気になる」「とにかく理屈っぽい」といった厄介な症状があり、うかうかしていられない。最近では用語を厳選してしゃべろうとするあまり、会話の途中で言いよどんだり黙り込んだりすることが増え、挙動不審に見られないよう必死に取り繕う始末だ。 

先日、ビリー・ジョエルの名盤『ナイロン・カーテン』の中の「アレンタウン」を聴きながら、ビリー自身のコメント訳を読んでいたら、「仕事の最中にモンキーレンチを放り投げる者もいた」というところで「ん?」となった。 

戦後の希望の象徴であった工業都市アレンタウンの盛衰について見解を述べているところなのだけれど、「僕らには希望がある。かといって、僕らの両親が戦争の後に抱いていた、例の無限で広大な未来展望を描いているわけでもない」ときて、いきなり「仕事の最中に…」という一文が入り、さらに「そして、突然、僕たちは天然資源を使い果たし…」と続く。 

昔なら確実に読み飛ばしていたが、職業病にかかった今の自分はこういう時、原文をチェックせずにはおれない。 

原文は、「There's been a monkey wrench thrown in the works」。「monkey wrench」は「だめにするもの」、「in the works」は「途中で」という意味があるので、「途中でだめになった」という感じの訳になるはずなのだが・・・。

そこでふと我に返る。自分は一体何をしているのだ?仕事の合間のコーヒーブレイクにちょっとビリーの曲を聴いていたのではなかったか? 

休憩中に余計に頭を使い、仕事に戻った一訳者のかなしき日常。